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「まさか、Hondaが大阪に!?」という驚きからの出会い──和気あいあいの浪花文化から、SDV開発の新機軸を発信

2023年秋にスタートしたSDV事業開発統括部の大阪拠点。2024年12月時点では、大阪駅至近のヨドバシ梅田タワーのWeWorkに事務所を置くが、2025年春からは、緑とイノベーションの融合拠点として再開発が進む「グラングリーン大阪」に移転する予定だ。現在のメンバーは約60人。うち、7割近くを転職者が占める。大阪拠点長を務める鈴木 宏章氏を含め、4人のメンバーが大阪での仕事や展望を語り合った。

この記事に登場する人

鈴木 宏章近影
鈴木 宏章 Hiroaki Suzuki
坂口 純子近影
坂口 純子 Junko Sakaguchi
吉井 侑典近影
吉井 侑典 Yusuke Yoshii
島林 祐介近影
島林 祐介 Yusuke Shimabayashi

電子プラットフォーム開発部
電子制御ユニット開発課
チーフエンジニア 兼 大阪拠点長

電動ソフトウェアソリューション開発部
電動システムソフトウェア開発課
アシスタントチーフエンジニア

モビリティシステムソリューション開発部
ソフトウェアエンジニアリング課
アシスタントチーフエンジニア

デジタルコックピット開発部
インフォテイメントソフトウェアプラットフォーム開発課
スタッフエンジニア

拠点長は、F1レースの経験者。栃木からの異動組と転職組の融合

——まずは、自己紹介からお願いします。

鈴木

私は1990年に本田技研工業(以下、Honda)に入社していますから、かれこれ34年になりますね。社歴の中ではF1やインディカーなどレース部門が長くて、13年くらい関わってきました。量産車の開発に戻ってからは、12V鉛バッテリーの制御ソフトウェアを専門に担当しました。2023年に大阪拠点の立ち上げから関わっています。

現在は、電子プラットフォーム開発部 電子制御ユニット開発課のチーフエンジニアと大阪拠点長を務めています。

坂口

私も新卒で入社して、すぐに配属されたのがレース部門です。鈴木さんにはその頃から大変お世話になっています。F1とインディカーのエンジン制御が担当で、国内外のテストベンチや実走テストで使うソフトウェアの開発を行っていました。

量産車開発部門に戻ってからは、ハイブリッド車の制御がメインになりました。SDV事業開発部が設立され、大阪にも拠点を立ち上げることになったため、2024年4月に栃木から電動ソフトウェアソリューション開発部 電動システムソフトウェア開発課へ異動しました。

SDVではソフトウェア開発のサイクルが速くなるだけでなく、単にメーカー視点ではなくお客様視点のクルマづくりが重要になります。そうした開発プロセスをどう作り上げるのかについて、現在、メンバーとともに取り組んでいます。

 

——お二人は栃木からの異動。吉井さんと島林さんが、大阪拠点開設に伴う転職ということなんですね。

吉井

私は前職は大阪の完成車メーカーで、小型車向けのハイブリッドシステムを開発していました。その前はアウトソーシング企業でしたが、その9年間の在籍のうち、8年間は関東の完成車メーカーで常駐エンジニアとして働いていました。そこでは、モデルベースの開発でアプリケーションを設計していました。

そういう意味で自動車業界の経験は長いのですが、2023年に認証試験問題が起きて、転職を考えるようになりました。以前のように、大阪拠点かつクルマの仕事をしたいという思いはありましたが、そのような仕事はないだろうなと思っていました。その矢先に、Hondaの大阪拠点開設の話を聞いたんですね。

最初は半信半疑だったのですが、よくよく聞くと、自分のキャリアや技術が募集条件にとてもマッチしていました。再びクルマに関わることができるならと思って応募しました。

現在は、モビリティシステムソリューション開発部 ソフトウェアエンジニアリング課で、開発者を支援するためのツールや開発環境、例えば仮想空間でクルマを作る「DPG(デジタル・プルービンググラウンド)」の整備などを担当しています。

将来的には、天候条件などを自在に変えられるデジタルなテストコースでクルマを走らせ、データを収集したり、シミュレーションしたりすることが可能になります。そういう新しい開発手法へのチャレンジはとても楽しいですね。

 

——もし、転職活動中にHondaの求人を聞かなかったら、今はどうしていたと思いますか?

吉井

クルマを諦めて農機の会社に移ったかもしれませんし、開発環境整備という軸では家電メーカーなどへの転職を考えたかもしれませんね。あるいは前の自動車メーカーに残っていたかもしれません。

——島林さんはどのような経緯でHondaに入られたのでしょうか?

島林

私も吉井さんと同期の2024年4月入社です。現在は、従来のカーナビを超える統合コックピットの機能を、後からアップデートして不具合修正や機能追加ができる「OTA(Over The Air)」で行うシステムの開発を担当しています。

現在はサプライヤーの方々と一緒に開発したり、テストを行ったりしています。私が所属するデジタルコックピット開発部は主に東京・六本木が拠点のため、東京に出張したり、実車試験で栃木の事業所に出向いたりしていて、月の半分ほど大阪を離れています。

ちなみに、前職はアウトソーシング企業でした。車載ソフトウェアの経験もありますが、白物家電のファームウェアの開発が長かったですね。これもOTAで行うため、その仕組みは現在のコックピット開発と似ています。

そこでの開発が一段落し、次のキャリアアップを考えていた頃に、たまたまHondaの求人を見つけました。吉井さんと同様に初めは「本当に?」と驚きました。ただ、前職で短期間ながら、車載に関わっていた際に、車載インフォテインメント(IVI)にも携わる機会があって、「クルマって面白いな、またやりたいな」と思っていたので、良いチャンスが巡ってきたと感じました。

アウトソーシング企業の業務が長くなると、いつかは自社開発に携わりたくなるんですよね。自分が開発したソフトウェアを搭載した製品が、自社ブランドとして世に出て、それをユーザーの皆さんに使ってもらえるという醍醐味を味わいたいと思ったのも、転職の理由の一つです。

 

——吉井さんと島林さんは、今どこから通勤されているんですか?

吉井

私は大阪の高槻市です。私も妻も大阪府出身なのですが、今は妻の実家が近いところに住んでいます。

島林

滋賀県の大津市です。京都を挟みますが、JRの新快速で一本で通えます。45分かかりますが、通勤は全然苦じゃないです。

関西の人はコミュニケーションが上手。クロスドメインの「文化祭」活動も

——現在の大阪拠点には60名強のソフトウェアエンジニアが在籍して、異動者と転職者が混ざり合っています。かつ同じSDV事業開発統括部ではありますが、所属している部署は電子プラットフォーム、電動ソフトウェアソリューションなど、それぞれ異なる。そうした人たちがワンオフィスで一緒に仕事をしているんですね。オフィスの雰囲気はどんな感じなんですか?

鈴木

活気があって、とてもいい雰囲気だと思いますよ。栃木は組織が大きいので、隣の部門の人と話す機会が少なかったのですが、大阪はまだ人数も顔と名前が一致する規模なので、互いに語り合うことでも勉強になるし、楽しいと思っています。

坂口

業務も一つの部署で大体完結していますよね。後ろを振り向けば別の部署の人がいるし、声をかけてランチも一緒に行ったりします。いろいろなことをやっている人がすぐ近くにいるので、相談も気軽にできます。部署をまたいだ「クロスドメイン」という活動も始まっており、いろんな新しいものが生み出せるんじゃないかなっていう期待がありますね。

吉井

クロスドメインというのは、正式には「クロスドメインアイデア創出活動」といって、ここではみんな「文化祭」と呼んでいます。部署をまたいでメンバーが集まって、Hondaのクルマに何か新しい価値を提供しようという目的で2024年8月にスタートしました。

私もモビリティシステムソリューション開発部を代表してそれに参加しています。というか、入社して初期研修を終えて、すぐには何もすることがなかったので、手を挙げました。12月末には大阪ユニットの中でその成果を披露、2025年に入ってからは、栃木でトップ陣を前にお披露目する予定です。

アイデアもモックで見せた方が早いので、3Dプリンタを使って作っています。普段の仕事では全く関わらないメンバーとも、その文化祭を通じてコミュニケーションが取れるのは楽しいのですが、日々の仕事量が増えるという点ではちょっと大変な部分もありますね(笑)。

鈴木

これは大阪拠点ならではの特色かなと思いますが、関西の人はコミュニケーション能力の高い人が多いような気がします。それと、在宅か出社かというと、圧倒的に出社率が高いですね。やはり顔を見てワイワイ話すのが好きなんだろうなと感じます(笑)。

車載ソフトウェア未経験は、けっしてハードルにはならない

——大阪拠点は、土地柄からも特に対面コミュニケーションを大事にする文化がありそうですね。ちなみに、2025年春には、グラングリーン大阪のオフィスタワーに引っ越す予定だそうですが、オフィスが広くなってもその雰囲気は維持したいと思いますか?

鈴木

そうしたいですね。そして、いずれはSDVの中でも大阪拠点ならではの特色も出していきたいと考えています。今、特に注力したいと考えているのは、AI技術です。関西には京都大学・大阪大学などのAI研究で優れた成果を挙げている大学があります。研究者たちとの連携を今後はさらに強化していきたいですね。

そうした研究開発のベースになる人材を大阪で採用して、大阪で育てていきたい。大阪とその周辺にはソフトウェア技術の優秀な技術者がいっぱいいるのに、みなさんなかなか関西から出たがらない。だったら、私たちが関東から移ってきて、ここで一緒に仕事をしてもらおうじゃないか、というのがそもそもの大阪拠点の狙いの一つでもあります。

坂口

これからは必ずしもクルマ関連の経験者である必要もないですからね。私のチームも、私以外は全員、クルマ以外のソフトウェア経験者ですし、中にはソフトウェア開発経験がない人もいるくらいです。

なぜなら、これからのクルマは、単にドライバーだけではなく、多様なユーザーやコンテンツとの接点を持つようになりますから、マーケティングやUXなど、そういう方面のプロの力が必要なのです。そういう人たちもHondaにどんどん来てほしいなと思います。

鈴木

車載ソフトウェア開発をしたことがないということは、一つの応募のハードルになっているのかもしれませんが、それはハードルではないんですよ。ソフトウェア開発はクルマであれ、スマホであれ、家電であれ、基本の仕事は変わらない。仕様を書いて、コーディングして、デバッグしてという一連の作業を理解されている方ならやっていけます。

さらに、今後はデータアナリストやソフトウェアデザイン、プロジェクトマネージャーなど、コーディング以外の職種も重要な役目を担うことになります。そうした人たちが絶対必要になっていきますね。

坂口

なにより今はソフトウェアがクルマを定義するように、Honda自身がものづくりの考え方を変えようとしている時期です。これまでは3~4年かけてようやく1台のクルマを作ってきました。

そういうスタイルが定着している人にとっては、ソフトウェア主導で開発を進めるスピード感には、なかなか慣れないかもしれませんし、私たちもこれまでやってきた仕事のやり方を変えなくてはなりません。

そこではむしろ、新しく入ってくる方たちの方がさまざまな知見やスキルを持っているので、私たちが逆に教わりながら、お互いの視点を混ぜ合わせて、新しいものを生み出すことが求められている。まさに今はその過渡期なのだと思っています。

上から指示されて動くのではない。自分で道を切り拓くのがHondaらしさ

——仕事のやり方が変わっても、Hondaらしいよいところは残したいですね。Hondaらしい文化に触れて、転職者のお二人は何を感じましたか?

島林

前職では上層部が指示を出して、私たちは言われるがままに仕事をこなすというスタイルでしたが、Hondaでは誰も何も言ってきません。私自身、今は各拠点に出張して、ソフトウェアの検証をしているのですが、最初は「検証が必要だけど、それは誰がやるのか」となった際も、誰も何も言わなかったので言い出した自分がやるしかありませんでした。

初めのうちはわからないことが多かったのですが、積極的に自分から動いて、クルマを実際に触っていろいろ覚えながら、今は自分のやりたいようにやっています。それができるというのが、Hondaらしさなのかなと思っています。

これまでカーナビのソフトウェア実装はしたことがありますが、今はそれだけに留まらず、自分で意思決定し、テストのオペレーションを担当したり、サプライヤーとやり取りしたりする中で、仕事の幅が大きく広がりました。自己成長につながっている実感がありますね。

鈴木

それをHondaでは「ボトムアップ」と言っているのですが、これが外から来た人には、最初はピンと来ない。自動車産業にはピラミッド構造があって、なかなか上には意見を言えないこともあるのですが、Hondaはむしろ下から意見を出していく文化なのです。

しかも、Hondaは自動車業界の中ではもともと転職者の多い会社なので、外からやってきた人にも同じように発言するチャンスがあるんですよね。

吉井

たしかに「こういうクルマを作ろう」というイメージは共有しているものの、「この開発はこうやっていくんだ」という上からの細かい指示が来るわけじゃないですね。そもそも新しい拠点だし、転職者も多いから、どう進めていいかよくわかっていないところもある。だから、自分から動くしかないんですよね。

入社時のSDM(ソフトウェア・デファインド・モビリティ)研修時に、「現場に入ったら自分で考えることばかりだから、思考をどんどん巡らせてほしい」といったことを言われましたが、まさにそうでした。自分で悩んで考えて、新しいことに挑戦する。それがHondaらしさなんじゃないかと思います。

一方で、技術的に古い面もあります。例えば、ソフトウェアテストでいう「シフトレフト」。開発工程の早い段階からテストを実施することですが、その文化がHondaには根づいていないように感じました。そのあたりは、他の会社を知っている自分たちが提唱して、積極的に導入していきたいと考えています。

吉井

自分と同じ分野のエンジニアがいれば、今どうやって開発しているかをヒアリングしながら、「自分が経験した中ではこんな手法もありますよ。これっていいと思いませんか?」と、アピールして、徐々にそれを広めています。

ロールプレイングゲームではないけれど、大企業で目標を達成するためには社内に仲間を作り、少数派から多数派を形成していくことが欠かせないですからね。

鈴木

吉井さんの話を聞いていて、まさにそうだなと思いました。Honda文化の中だけにいては、なかなか気づけない視点もあるから、それは取り入れていきたいですね。そうした異文化を取り入れて融合できること、それこそがキャリア採用の意義だと思います。

それから、決して意識して“放置”しているわけではなく、今は人が足りなくて、手取り足取り教える余裕がないっていうだけですから、あしからず(笑)。

坂口

ワイガヤ文化というか、結構みんなが平等に言い合える文化はたしかにあります。それだけに、「自分の領域はここまでです」とか、あまり区切っていなくて、ときには他の領分にも口を出してケンカになることもあります(笑)。

テストコース試乗もあるSDM研修。成果を焦らず、先を見据えた「いい仕事」を

——SDV事業開発部への転職者は、全員が2カ月間のSDM研修を受けるということですが、それはどのようなものですか?

鈴木

入社月に応じてグループ分けをして、実際にクルマを開発している栃木事業所で研修を行います。栃木にはテストコースもありますから、そこでの試乗体験もできます。海外含め、他社の最新鋭であるクルマに同乗して、新しいクルマの乗り心地を実感してもらいます。

さらに、さまざまな部署の部課長クラスもそこにいるので、彼らとのディスカッションの時間も設けています。

島林

クルマのソフトウェアをやってきた人ばかりではないので、クルマがどうやって動くのかという基礎の部分から、SDVの考え方、さらには最新のAIトレンドなど、幅広いカリキュラムでした。その間、平日は転職者同期入社のメンバーとともに宇都宮のホテルに滞在していたため、彼らと転職者同期としての仲間意識もそこで育まれました。

吉井

SDM研修では、メーカーや車種ごとの、自動運転や車間追従の比較を見せてもらいましたね。同じ自動運転といっても、やはりメーカーごとにかなり違います。島林さんが言うように、2カ月間の研修で人とのつながりができ、配属先はそれぞれ異なりますが、今でもわからないことがあったら、すぐに聞けるような関係性を築いています。

島林

どんな会社でもそうですが、その会社でしか通じない用語や略語などもあって、言葉がわからないことはよくありますからね。Honda用語の辞書のようなものがありますが、そこにも載っていない用語もありますし、Hondaに長くいる人に聞いてもわからないことがあります(笑)。

吉井

この前も「SRフロー」という言葉に出くわしたのですが、「R」はリサーチの略で、開発(D=デベロップメント)の前段階の調査研究のことなんです。ただ、その「フロー」が何を指すのかはよく分からず、人によってみんな言うことが違うんですよ(笑)。

——「SRフロー」の「S」は何の略ですか?

全員:(一瞬、沈黙。互いを見ながら)Sって何の略だろうね(笑)。

鈴木

言葉の定義が社内でも時代とともにどんどん変わっていくので、みんなでイチから覚えていかなくてはいけないことが多いですね(笑)。

ともあれ、拠点長としては、全国にSDVとしての事業所を展開して、新たな人を採用し、各拠点の人材のキャラクターを見極めながら、拠点ごとの特色を出していく。そして、いずれは全体を一枚岩にするように仕組みを作っていくことがミッションです。

最後に、転職してくる人たちに伝えたいメッセージとしては、入社後すぐに成果を出そうと思って、焦る必要はないということ。会社としてはSDV開発への転換を「爆速」という言葉で表現しているのですが、焦ってアウトプットを出すことよりも、重要なのはその「質」だと考えています。

単なる「これをアップデートしました」という仕事ではなく、もっと先を見据えた良い仕事をしていただきたい。それには1年でも、3年でも時間がかかっていいのです。ただ、自分はHondaで何をやりたいのか、それが明確であれば、私たちは待つことができます。

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