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【Honda×パナソニック】AIやデジタルツインなど、先端技術を駆使して挑む次世代エネルギーマネジメントシステムの開発~後編~

地球温暖化の要因とされるCO2削減に向け、国の施策はもちろん、企業もさまざまな取り組みを行っている。中でも注目されているのが、エネルギーの使用状況を可視化すると共に、最適化するエネルギーマネジメントシステム(EMS)だ。日本を代表するメーカーのHondaならびにパナソニックグループのエンジニアが、現在の状況や目指すべき未来を語った。

この記事に登場する人

岡市 敦雄近影
岡市 敦雄 Atsuo Okaichi
水野 隆英近影
水野 隆英 Takahide Mizuno
白澤 富之近影
白澤 富之 Tomiyuki Sirosawa

パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
ソリューション開発本部
システムソリューション開発センター
データ分析活用部
部長

2001年、大学での建築工学の学びをベースに、パナソニック(当時松下電器産業株式会社)に入社。
本社R&D組織に在籍し2013年まで研究者として空調や給湯に用いるヒートポンプ技術の研究開発を担当。
その後、責任者として水素利活用にかかわる電気化学系の研究開発を担当し、エネルギー・電力分野の知見を蓄積し、2018年より、現組織にて電材事業におけるデータ分析・利活用の研究開発を担当。

本田技研工業株式会社
電動事業開発本部 BEV開発センター
エネルギーシステムデザイン開発統括部
エネルギーサービスシステム開発部
部長

2001年に本田技術研究所へ新卒入社し、エンジン制御開発を担当。2006年からは第3期F1レースチーム参画。アメリカ駐在を経たのち、NSX HEVの先行/量産開発、エンジン、ハイブリッド、BEVパワーユニット部門責任者を担い、2022年よりBEVとバッテリーを活用したエネルギーサービス事業開発責任者となり事業化を目指し、現在に至る。

本田技研工業株式会社
電動事業開発本部 BEV開発センター
エネルギーシステムデザイン開発統括部
エネルギーサービスシステム開発部
エネルギーシステム性能開発課
課長

2003年に本田技術研究所へ新卒入社。学生時代の電気電子工学の知識を活かし、HEV車両のパワエレ開発やインバーター高周波NV、HEVモーター開発、HEV/PHEV/BEVパワーユニットの開発やパワーユニットコネクテッド、熱マネの戦略業務を幅広く経験。2022年からはエネルギーサービス開発の課長として組織マネジメントを行いながら技術者としてもV2GやBESSなど新たな開発の中心人物を担う。

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こちらの記事は【後編】です。
是非【前編】もご覧ください!

カーボンニュートラルを2050年に実現させるための挑戦

続いては、パナソニックの岡市 敦雄氏が登壇した。入社後は本社のR&D部門や先端技術部門などのヒートポンプ、燃料電池、水素などの技術領域で研究開発業務に従事してきた。2018年よりグループ内において、照明など電気設備を手がけるエレクトリックワークス社にて、電材事業におけるデータ分析、利活用を推進する研究開発ならびに同部門の部長を務める。

パナソニック株式会社はパナソニックグループにおいて、家電や空調、電材といった私たちの暮らしを支える事業を手がけている。中でもエレクトリックワークス社で岡市氏が担当する電材事業は、スタジアムからオフィスや店舗そして住宅の照明設備や配電、環境エネルギーソリューションなどに取り組む。

カーボンニュートラルを2050年に実現させるためには、原子力の活用、燃料の転換、再生可能エネルギー(以下、再エネ)電源の増加、電化といった変化が生じるだろうと、岡市氏は語る。

中でも後者2つは社会インフラへの影響が大きいことから特に着目していると述べ、予見される影響や課題についても言及した。

まずは再エネ電源の増加について解説した。「代表格である太陽光は、晴れた昼間に集中的に発電するため、同時間帯に余剰電力が発生する。逆に、太陽が沈んだ後に急激な発電ニーズが生じるとの課題がある」と、岡市氏は語る。

対策においては利用する側が、余剰電力がある昼間の時間帯に積極的に電力需要を増やす。逆に、夕方以降は電力需要を減らす。このような取り組みが必要だと述べた。

続いては電化について語られた。前述したHondaの内容に重なるが、この先EVが増加していったり、IHクッキングヒーター のような設備が増加していくことで、新たな電気の需要が生まれることが予測される。

例えば、現在日本にある乗用車の数は約6000万台と言われている。これがすべてEVに置き換わり、一台あたり3kWほどの電力で充電したとすると、全体のボリュームは1億8000万kWとなり、これまでの日本における最大の電力需要と同じボリュームになる、と岡市氏は指摘した。

このようなデータを踏まえた上で、一斉に電力を使うのではなく、まさに再エネの対策と重なるが、発電量の多い昼間の時間帯や需要が少ない深夜帯に使うなど、電力利用を平準化することが重要だと、改めて述べた。

そして、これらの課題についてパナソニックではさまざまな研究開発を行っており、具体的なソリューションも既に提供している。

Hondaのセッションでも挙がったHEMSにおいては、「AiSEG3」 というソリューションを提供している。自宅のエネルギーを見える化するだけでなく、気象情報ならびに過去の電力需要データを活用することで、翌日の太陽光発電量ならびに電力需要に基づいた電力マネジメントを行うことで、電気代の削減に寄与する。

岡市氏はどのように電力マネジメントを行っているのか、電気代の削減も含め、仕組みも併せて詳しく紹介した。

一方で、多くの住居者は自宅の屋根に載っている太陽光パネルの設置情報を詳しくは知らないことが多いために、電力データからの推定で情報を補って手間をかけないなどの解決策についても述べた。

電力利用の平準化や電力データなどの利活用である。実際、AiSEG3を利用すると昼間の再エネの利用が6割から8割と約2割増加する、という成果も続けて紹介した。

続いては、企業や自治体に向けたEVの充電インフラの導入や運用をサポートするソリューション、「Charge-ment」である。同ソリューションを利用することで、企業や自治体が利用する業務車両EVの一斉充電などを回避し、電気代を削減する。

電気代の基本料金は、1カ月の中で最も電気を多く使った30分間の平均電力値により決まり、その月から1年間の基本料金に影響する。そのためオフィスに戻ってきたクルマが一斉に充電を行うと電気代の高騰はもちろん、多くの充電システムが必要になってくるなど、コスト高になりやすい。

そこで充電電流の上限値に基づき、複数のクルマに充電を行ったり、時間軸で充電量を調整したりすることで、電気代の削減を目指す。「実際、EVの充電タイミングを分散させることで、乗用車6000万台がEVに置き換わったとしても国内の最大電力の約5%まで充電による電力需要を抑制できる可能性があります」と、岡市氏は社会課題の解決への期待を述べた。

研究開発事例についても紹介した。まずは、経済産業省の助成を受けて取り組んだ住宅用蓄電池を用いた、電力系統安定化のためのアグリゲーション技術についてだ。一時的に電力供給が減少した際に、複数世帯の蓄電地を活用する取り組みであり、関東地域での取り組みでは、既に成果も確認されている、と述べた。

続いて紹介したのは、発電量の多い昼間の時間帯は安く、逆に少ない夜間の売電料金は高いといった、リアルタイムプライシング(以下、RTP)だ。その料金体系を活用することで、電気代の削減ならびに、再エネ電力の増加を実現する取り組みである。

こちらの取り組みでは東京大学の研究部門と連携しながら、蓄電池やヒートポンプ給湯機の利用をシフトすることなどで、受給のバランスを制御。実際、需要シフトによる平準化や、コスト削減が確認できたと、成果を述べた。

パナソニックグループではこのような取り組みを通じ、自社のバリューチェーンにおけるCO2排出削減はもちろん、同社の製品を利活用することによりコスト削減を実現している。

さらには将来的に生み出す事業と大きく3つの領域それぞれ1億トンほどのCO2削減を2050年までに達成するとの目標を紹介し、岡市氏はセッションを締めた。

【Q&A】参加者からの質問に登壇者が回答

セッション終了後は、イベント参加者からの質問に登壇者が回答した。抜粋して紹介する。

Q.海外での充電エネルギーサービスの取り組みについて

水野

日本と比べると欧州の方が進んでいます。一方で、我々はクルマをグローバルに提供していますから、まずはその欧州のサービスをアメリカに展開していく。続いて日本に、そしてアジア各国へ広げていきたいと考えていて、その際にもパートナーとの協業も考慮しながら、進めていきます。


Q.発表したEV充電制御サービスと既存のタイマー充電との違い

岡市

タイマー充電は太陽光発電設備がある場合などのケースでは、天気予報を見ながらお得になる時間帯に充電するように手動で設定する手間がかかります。特に法人の建物の場合には、需要を見ながらコントロールすることは難しいでしょう。我々が開発するエネルギーマネジメントシステムに置き換えることで、そのような手間をなくすことができます。


Q.PHEVモデルの航続可能距離は紹介したデジタルツインを活用して決定しているのか?

白澤

走行距離が少なくデータが少ないため、現在はガソリン車のデータを変換して活用、計算しています。当然、現実とのギャップが出ないようにも考慮しています。


Q.先端技術の活用も含めた開発に対する想いは?

岡市

当社の製品やサービスによりお客様の生活や暮らし、社会をいかに快適で心地よいものにしていくか。そのような想いで開発に臨んでいます。技術は手段だと捉えていますので、先端技術はもちろん積極的に活用していきますが、古い技術でも必要な場合は組み合わせも含め、適切に採用しています。

水野

Hondaが創業期から掲げていることでもありますが、環境をよくすることで人の役に立ちたい。これが、開発の根底です。EVの展開については、クルマや自宅のデータを活用することで、パーソナライズされたサービスをお客様が意識することなく提供したいと考えており、その結果、暮らしや移動の概念が変わるだろうと思っています。


Q.夜中に急遽外出することになったがBEVの電力が販売されていて移動できない。このようなケースは生じるのか?

白澤

EVであっても移動が一番であり、その次として止まっているときのエネルギーを販売するという考えが前提です。そのため移動に必要な電力の絶対量は確保した上での電力販売といった制御をしていますので、走りで困るようなケースは生じないと考えています。


Q.EV普及先進国である欧米での課題とは?

岡市

EVの普及に伴い充電設備も増加する必要がありますが、送配電インフラに流せる電力上限の制約で、新たな設備を設けるまでに順番待ちの地域があるなど、時間が生じているといった課題があります。

白澤

紹介したようなV2Gサービスをグローバルに展開していこうと考えていますが、電圧が対応していないのが現状です。またルールや法律、アセスメントなどが各国により異なるので事業としての成立も含め、どのように対応していくか。このような課題があると考えています。


Q
.パートナーシップとの連携における工夫や配慮は?

水野

これまでの経験から、利益という観点で進めていくとうまくいかないと考えています。実現したいビジョンがあり、一緒に組むことでスピーディーに実現できる。そのような考えが一致すると、話がスムーズに進むと捉えています。また現状のパイを分け合うのではなく、新しいパイを広げるといった議論で進めることも、同じく大事だと考えています。


Q.リアルタイムプライシングなどの最適制御によるCO2削減への貢献について

岡市

最適制御を行うことは、クリーンエネルギーの活用につながり、主に火力発電によって電力を供給している時間帯の電力使用を下げることにもつながるため、CO2削減に間接的につながるものだと考えています。

 

【前編】の記事もぜひご覧ください ※

パナソニック株式会社
https://www.panasonic.com/jp/about.html

パナソニック株式会社の採用情報
https://saiyou.jpn.panasonic.com/

 

※掲載内容は、イベント実施日である2025年1月時点のものです

 

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