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Honda CONNECTは、“Connected(つながる)”から“Wise(賢い)”へ——Global Telematics Center(GTC)を支えるDevOps課の挑戦

Hondaのコネクテッドサービスは、どのような仕組みによって支えられているのか。そして、その裏側ではどんな人たちが、どんな思いで開発・運用に向き合っているのか。そんな問いを起点に始まったのが社内座談会だ。デジタルプラットフォーム開発部 DevOps※1 課に所属し、世界中のHonda車をつなぐクラウド基盤「Global Telematics Center(以下、GTC※2)」の開発・運用を担う若手エンジニアたちが語り合う。

※1 DevOps:「開発(Development)」と「運用(Operations)」を分けずに、一体で進める考え方・取り組みのこと。

※2 GTC:「Global Telematics Center」の略。世界中のクルマとクラウドをつなぎ、車両データの収集・管理やコネクテッドサービスを担うグローバルなシステム基盤のこと。

この記事に登場する人

入倉 和志近影
入倉 和志 Kazushi Irikura
後藤 朱里近影
後藤 朱里 Akari Goto
武村 友近影
武村 友 Yu Takemura

デジタルプラットフォーム開発部 DevOps課

2018年にHondaへ新卒入社。入社以来、グローバルのコネクテッド基盤であるGTCおよび地域システムの運用を経験。2023年にリリースされたアジアコネクテッドのスマホアプリ・システム開発に従事したのち、現在は次世代GTCの開発と、既存世代の運用および進化対応を担っている。

デジタルプラットフォーム開発部 DevOps課

2019年にHondaへ新卒入社。入社以来、グローバルのコネクテッド基盤であるGTCの運用・開発に従事。2025年4月から半年間、 American Honda Motor でのトレーニー派遣を経験し、帰国後は次世代自動運転機能のサーバー開発や北米法規対応、コネクテッドデータを活用した新価値創出の検討に携わっている。

デジタルプラットフォーム開発部 DevOps課

大学卒業後メーカー系Sierに入社し、金融市場向けのインフラエンジニアとして活動。
小売り企業への転職を経て、2023年にHondaに入社。コネクテッドサービスを支えるバックエンドシステムの設計に携わっている。

Honda CONNECT——安心・ストレスフリーなカーライフを実現

DevOps課が手掛けている「Honda CONNECT」とは、クルマとクラウドをつなぎ、安心・快適なカーライフを実現するHondaのコネクテッドサービスである。
スマートフォンを使った遠隔でのエアコン操作、ドアロック確認、盗難時の駆けつけサービス、運転診断による保険料割引など、さまざまな機能を提供している。

2020年2月発売の新型「FIT(フィット)」に日本で初めて搭載され、その後も様々な車種でサービスが拡大しているHonda CONNECTだが、現在も進化を続けている。これまでは安心・快適なカーライフを支えるサービスだったが、次世代カーに向けてその役割はさらに拡大し、より広い価値提供へと広がろうとしている。

こうしたサービスを実現するためには、膨大なデータの処理、解析の仕組み、さらに外部事業者とも柔軟に連携ができるプラットフォームの構築など、さまざまな技術的課題がある。それらに対応する組織として、2025年4月にSDV事業開発統括部 デジタルプラットフォーム開発部内に新たに設けられたのが「DevOps課」だ。

Hondaは現在、SDV戦略・事業企画を上流工程から一気通貫かつ爆速で推進する体制を整えている。そのためには、開発と運用を統合し、組織全体で協力して高品質なソフトウェアを迅速かつ継続的に提供するための考え方や進め方が欠かせない。DevOps課の取り組みは、そうした変化を体現するものだ。

今回の座談会では、DevOps課に所属するエンジニアたちに、日々の取り組みに込めた思いや、今後 Honda CONNECTをどう発展させたいのかを語ってもらった。

DevとOpsが一体化。広がる視野とそれを支えるコミュニケーション

——まず、組織名称が『DevOps課』に刷新されたのは、2025年4月だそうですね。

入倉

開発と運用を分けずに一体で考えるスタイルは以前から存在していましたが、ここ1〜2年で本格的に開発と運用を“両輪で回す”段階に入りました。運用の立場からいうと、以前より“運用が主役の一部になった”感じがあります。そうした流れが組織名として明確化されたのが、2025年4月です。

GTCはこれまで第1〜第3世代まで段階的に進化してきましたが、サービス規模や役割の拡大を見据え、次の成長に対応できる基盤づくりが求められるようになってきました。そして、次期基盤となる第4世代GTCの開発が本格化し、「これはもう、開発と運用を分けていたら回らない」という認識が共有されたことが背景にあります。現在は、運用中の課題や気づきを、次の開発に素早くフィードバックできる体制が整いはじめています。

後藤

たしかにアプリ、サーバー、運用の境界を気にしている場合じゃない、という感じがありましたね。課題が起きた時に「これは誰の担当か」と線を引くよりも、「今ここで何をすべきか」を優先する文化の重要性が認識され、それが、自然とDevOps的な形に近づいていったのだと思います。

入倉

「上司だから決める」というより、状況や解決策を最も理解している人が自然に前に出る、という雰囲気があります。

武村

職場内の雰囲気もすごく良くて、問題が出たらすぐ集まって話す。立ち話から解決までスピード感がありますね。私は名前が変わったこと以上に、空気が変わったと感じています。組織の垣根がどんどんなくなっているという実感があります。

現在、DevOps課には70名が在籍しており、その中で第4世代GTCに関わるのは約20名だ。巨大なグローバル基盤を支える人数としては決して多くはないが、その分、一人ひとりの守備範囲は広い。

座談会の参加者3名は、同じDevOps課に所属しながらも、それぞれ立場が異なる。入倉氏はGTCの安定運用と次世代基盤の立ち上げを横断的に見ており、後藤氏は車両とサーバーの間を流れるデータ設計を担い、武村氏は通信キャリア契約、サーバーを介した充電制御、外部サービス連携といった「外とつながる部分」を担当している。そのため、同じ所属でも見ているポイントが異なる。

世界数百万台を支える「GTC」開発。「クルマの声」をどう流すか

入倉氏が挙げたGTCは、Honda Connectを含むHondaのコネクテッドサービス全体を支える中核基盤だ。AWS上に構築され、世界中の車両数百万台と常時つながる大規模なクラウドシステムとして稼働している。現在は、”第4世代”となる次期基盤開発が進んでいる。

第1~第3世代のGTCは、それぞれ異なる時代背景や市場ニーズに応じて開発されてきたため、必ずしも一貫した思想で作られているわけではなかった。第4世代GTCでは、こうした経緯を踏まえた上で、初期段階から「グローバル共通の基盤として使う」ことを前提とした開発が進められている。

入倉

基盤づくりは、後からシステムを統合しようとすると、どうしても無理が出てくるんです。それなら、最初から世界共通で使う前提で作ろう、と。特に重視されたのがレスポンス性能です。スマートフォンアプリで操作した際の待ち時間は、ユーザーの満足度に直結する。数秒程度でも、ユーザーの感じ方は全然違います。もし、使う中で「あれ?」と感じさせてしまったら、開発者としてはとても悔しい。だからこそ、細部まで違和感のない体験づくりを大切にしています。

あと、GTC第4世代でもう一つの難しい点は、世界各国の商習慣や法規を踏まえた上で、共通の仕組みに落とし込むところですね。アメリカ、欧州、アジア…それぞれの考え方やルールが違う。それを一つのシステムにまとめるのは本当に大変です。でも、その分だけやりがいもあります。

それから、扱うデータ量も桁違いです。1日に数億ファイル単位で車両からのデータが上がってくるんです。それが世界規模になるので、単純に「サーバーを立てました」では済まないし、支えるコストも大きくなります。だからこそ、データを処理するだけでなく、意味と価値を引き出すことが必要なんです。

加えて、運用は止まらないのが当たり前です。止まらなければ話題にもなりませんが、ひとたび止まれば世界中のお客様に影響が出てしまいます。その責任の重さを常に感じています。

そのため、日常的にシステムの状態をアラート等で監視するとともに、AIなどの技術を用いて異常の兆しを早めに捉えて対応できるようにしたり、発生した事象の振り返りや改善を実施したりという活動を積み重ねています。

こうした運用を続ける中で、安定稼働だけでなく、サービス利用時の体感速度といった“体験品質”に関する改善点も見えてくる。この体感速度を改善するために、通信経路や処理順序、データ設計が見直された。それを担当しているのが後藤氏だ。

後藤

私はGTCに流れるデータの“ルート設計”をしています。車両から送られてくるのは単なるログではなく、センサー情報、充電状況など、多様で時間的にも連続したデータです。それを受け止め、加工し、必要なところへ届けるという一連の流れを、止めることなく維持しなければならないんです。

車からサーバーへ、サーバー間でどう中継するか。そのデータの流れをどう設計すれば、速く正確に動くかを考えています。

その分、設計は複雑になりますが、レスポンス改善に向けて、車両とサーバー全体での機能配置の見直しを進めています。

後藤氏は、アメリカ・カリフォルニア州トーランスにあるAmerican Hondaでの半年間のトレーニー派遣を終え、2025年9月に帰国したばかりだ。帰国後、後藤氏は次世代ADAS(先進運転支援システム)のサーバー開発や北米法規対応、データを活用した新価値創出など、より広いテーマを扱うようになり、視野が一段と広がった。

後藤

アメリカにいたのは4月から9月までの半年間でしたが、本当に学びが多かったです。特に印象的だったことは、アメリカではジョブ型で役割自体は分かれているという点です。

ただ、その役割を理由に、企画・開発・運用を「自分の担当外」と切り分けたままだと、仕事が前に進まない場面も少なくありません。それに加えて、グローバルと各国の現地法人が一体となって動かなければ、結局うまく回らないということを強く感じました。それぞれが専門性を持ちながらも、「自分の担当外だからわからない」で止まらず、相手に寄り添い、共通の目標に向かって、ともに取り組む姿勢が大事だと感じています。トレーニーとしての経験を通して、その感覚を掴めたのは大きかったですね。

また、もう一つ強く感じたのが、成果や対応に対して、感謝を言葉にする文化です。日本ではできて当たり前で流れてしまうことも多いですが、「ありがとう」「助かった」と、ちゃんと言われると、やはり気持ちが違いますね。

それと、会議の雰囲気が明るくて、シビアな障害対応時にも誰かがジョークを言って笑いを起こす。ああいう空気感がアメリカらしさなのだと思いました。

今は、法規に対してシステム仕様が違反しないよう、改修を進めています。クルマは法律をクリアしないと世に出せませんから、地味ではあるけれど大事な仕事だと感じています。

通信キャリアを「世界で一元化」。夜間“お得充電”も、つながる力で実現

武村氏の主な担当は3つある。1つ目はEV充電の制御システムだ。2つ目は、車両データを外部企業に連携する仕組みづくり。そして、3つ目が、通信キャリアの一元化である。

武村

これまでの通信キャリアは、地域ごとに契約していました。例えば、日本ではA社、アメリカはB社という感じです。それを今後は一部の地域を除いたグローバル全域で、C社と一括契約をする方針に切り替えます。

コスト削減と開発効率化です。小規模地域では契約条件が不利になることも多いのですが、全世界のクルマという大口で契約すれば単価をぐっと下げられるのです。通信部分はお客様の目からは見えないため基本的に気づかれませんが、裏側では、大幅なコストダウンとプラットフォーム全体の効率化につながります。

また、それと並行して、充電制御も開発しています。例えば、アメリカでは夜間に電気代が安くなるため、その時間帯に自動で最適な充電ができるよう制御しています。電力コストを抑えながら充電できるよう、サーバー側からクルマへその指示を送る仕組みです。

さらに、公共の充電器では、ケーブルを差すだけで認証・決済まで完了する仕組み(プラグアンドチャージ)も実装しています。サーバー側で裏から制御し、どの事業者の充電器でもスムーズにつながるプラットフォームにしていきたいですね。

Hondaが“アプリも一元化”する理由

——Honda CONNECTに使われるアプリも、今後は全世界で統一されるようですね。

武村

はい、第4世代からは全世界共通になります。これまで地域ごとに別々のアプリを開発していたため、開発コストや品質もバラバラでした。一元化することで品質も同じ水準に揃えられますし、世界中のお客様の声をすぐに反映し、更にお客様のフィードバックを世界中から知るというサイクルが生まれます。完全に統一している例は他社でも多くないと思いますが、Hondaはそこに挑戦しています。

入倉

地域ごとに届いていたお客様の声も、今後はグローバルで集約して分析できるようになります。DevOpsの立場としても、より客観的なフィードバックができるようになるのは良いですね。

ただ、課題もありまして……。私も以前はスマホアプリを担当していたのですが、アプリ側のUIの発想は、車載側やサーバー側の制約とぶつかりやすいんです。

アプリ側は「ユーザーのためにこれを絶対に出したい」と言う。でも車載側は「それは動作条件が厳しい」と返す。さらに、サーバー側は「その仕様だと負荷が大きくなる」と主張する。結局、三者で折り合いをつけながら、最適解を探していくしかありません。

その点、今のHondaは「開発の手の内化」、つまり内製化を進めようとしています。アプリ・車載・サーバー側が一緒に議論して解を見つける機会が増え、以前よりずっとやりやすくなっていると思います。

若手のワイガヤがリードする「第4世代」開発

第4世代の開発では、新卒・キャリア採用を問わず、30代前後の若手メンバーが積極的に発言するようになった。

後藤

私はいま、自分が考えた仕組みが現実になっていくことに、すごくワクワクしています。それをやりたくてHondaに入ったようなものですから。

入倉

現行世代を作った先輩たちの基盤を引き継ぎつつ、新しい世代のクルマでは自分たちの判断で設計していく。その責任感と自由度のバランスが、Hondaらしいと思いますね。

武村

もともとは部門間の距離を感じる場面もありましたが、組織編成を経て、以前よりも連携しやすくなったと感じています。私は他業種・他社も経験していますが、ここまで社内連携が濃い会社は珍しい。ナビ、アプリ、企画、事業部など、さまざまな人たちが同じテーブルに集まってアイデアを出す。守備範囲は違っても、みんなが一つの絵を描けるんです。

2026年1月からは企画や事業部とも同じオフィスで働くことになるので(取材時は2025年12月)これまで以上に日常的なコミュニケーションが取りやすくなり、連携もさらに深まっていくと思います。みんな、フラットで話せる空気があります。

Connected(つながる)”から“Wise(賢い)”へ

開発体制が整い、アプリのグローバル統一や運用の改善が進むなかで、Honda CONNECTは次のフェーズに入りつつある。目指すのは、ただ「つながる」だけではなく、データを活用して価値を生み出す“考える”プラットフォームだ。

——では、改めて「Honda Connectとは何か」を一言で表すと?

入倉

「便利機能の集合体」から、「価値を生み出す仕組み」へ進化するものだと考えています。集めたデータを分析して、お客様ごとに最適な提案ができるようシステムを最適化していく。そこが次の挑戦ですね。

後藤

私の次の挑戦として、売り切り型のビジネスから継続的な価値を生み出せるエコシステムの創出を掲げています。実現したいエコシステムでは、お客様、他社、Hondaの三者が“Win×Win×Win”になる仕組みを目指しています。移動を通じて得られるリアルな体験の前後に着目し、クルマのデータを活用することで、外部事業者とも連携しながら、新しい移動体験価値を創出したいです。

武村

Honda CONNECTは、Hondaが提供する一つの巨大なプラットフォームだと捉えています。お客様は「Hondaのサービス」だと思っていますが、実は見えないところで、他社とも連携し、さまざまなサービスをこのプラットフォーム上で実現している。そういう“黒子”として機能するのも、ありだと思っています。

——ただ、そのマネタイズはどう考えているのでしょうか。

武村

これまでは「データはあるだけで価値がある」と思い込んでいたところがありました。何百万台ものクルマから大量のデータが送られてくる。それ自体がすごい、と。でも、実際は、整形して使える形にしなければ何の役にも立ちません。これからは「誰にとって、どんな形だと意味のあるデータなのか?」を最初から考えて設計していくことが重要だと思っています。

後藤

そのため、デジタルプラットフォーム開発部の中に「戦略企画課」が立ち上がり、外部連携やデータ活用の戦略を担い始めました。私も最近、その活動に参加しています。どうすれば価値が生まれるのか? そのために、どの業種の誰と組むべきなのか。そうした視点から、データプラットフォームを“どう育てていくか”を考えています。

入倉

これまで表に出にくかった運用の役割ですが、現在は開発と同等に設計や意思決定に関わり、サービスの価値向上に直接貢献する重要な仕事となってきています。さらに、現場で見えている課題や気づきを、戦略や企画にフィードバックする流れもできつつあります。

後藤

以前は、コネクテッドサービスを利用するお客様向けの機能を、言われた要件どおりに作るのが中心でした。今はそこから一歩進んで「コネクテッドプラットフォームをどう拡張して、どうマネタイズしていくか」まで考えるようになりました。エンジニアも経営視点を持てるのは、純粋に面白いですよ。

GTCというグローバル基盤を通じて、世界中のHonda車がつながる。だが、彼らが目指すのは、単なる「接続」ではない。誰にどんな価値を届けるのか、そのためにデータやプラットフォームをどう活かしていくのか——。その問いに向き合いながら、Honda CONNECTを“価値を生み出すプラットフォーム”へ進化させようとしている。

Hondaが描く次のステージは、“Connected(つながる)”から“Wise(賢い)”へ。
その変化は、派手な機能追加だけで起こるものではない。通信やアプリのグローバル統一、そして運用の現場で積み上げる改善。目では見えにくい施策の一つひとつが、Honda CONNECTを「価値を生み出す仕組み」へ押し上げていく。その最前線にいるのが、DevOps課のエンジニアたちだ。

 

※記載内容は2025年12月時点のものです

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