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空間で伝えるオフィス――虎ノ門「Honda Software Studio Tokyo」に隠されたHondaの哲学を探してみた

2026年に虎ノ門に誕生した「Honda Software Studio Tokyo」。赤坂、六本木、天王洲など都内に点在していた機能を集約し、約1,100人が働くSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)開発の中核拠点です。真っ白なエントランス、曲線をまとった什器、栃木の桜から削り出したテーブル――ここにはHondaの哲学と「ソフトウェアの会社になる」という決意が至るところに散りばめられています。拠点長の森田、オフィスデザインを率いた阿野、プロジェクトのLPL(Large Project Leader)を務めた望月、Hondaのオフィスづくりに長く携わってきた安齊の4人と、その狙いを解き明かします。

この記事に登場する人

森田 純行近影
森田 純行 Masayuki Morita
安齊 秀彦近影
安齊 秀彦 Hidehiko Anzai
阿野 和隆近影
阿野 和隆 Kazutaka Ano
望月 誠近影
望月 誠 Makoto Mochizuki

SDV研究開発センター
SDV商品サービス開発室

2003年Hondaに新卒入社。ナビ・コックピットHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)開発を経て、2020年よりコネクテッド・デジタルサービス開発とデータ活用を推進。現在はHonda車から集まるテレマティクスデータのさらなる活用価値向上を中心に取り組む。

SDV研究開発センター
SDV開発改革室
開発推進イニシアティブ&アーキテクトブロック

1987年Hondaに新卒入社。電装領域や先進安全機能の研究開発などに従事。Honda Software Studio Tokyoプロジェクトには、立ち上げ段階から参画。

コーポレート戦略本部
ブランド・コミュニケーションセンター
ブランドプランニングスタジオ

1999年Hondaにキャリア入社。量産製品のカラーデザインを手がけた後、ドイツに駐在し海外工場支援などに携わる。その後、新技術によるデザイン研究などを経て、現在はデザインによるブランド価値向上のためのコミュニケーションデザインを手がけている。

SDV研究開発センター
スマートキャビン開発室
インフォテインメントソフトウェア開発ブロック

総合部品メーカーを経て、2022年にHondaにキャリア入社。車載インフォテインメントシステム機能「IVI(In-vehicle Infotainment)」の開発に従事している。Honda Software Studio TokyoプロジェクトではLPL(開発責任者)を担当。

「クルマを知らなくてもいい」 この場所が、”ソフトウェアのHonda”への意思表示

「Honda Software Studio Tokyo」設立の出発点は、キャリア採用にありました。ソフトウェアや情報系、電気電子系の専門人材に、Hondaの門を叩いてもらうこと。その障壁になっていたのが、Hondaの「強すぎるイメージ」だったと阿野は振り返ります。

阿野

Hondaにはどうしても、エンジン、油、レースという印象が強くあります。クルマに詳しくない方は、たとえ魅力を感じたとしても『自分が応募していいのかな』とためらってしまうんですよね。でも今は、ソフトウェアがエンジンと同じくらい大事な時代です。その事実を、虎ノ門という場所やオフィスのデザイン、『Honda Software Studio』という名前で伝える。そうして門を叩きやすくすることが、この拠点の大きなミッションです。

実際、ここでは運転免許を持たないメンバーも活躍しているそうです。彼らはHondaのどんなところに惹かれたのでしょうか。

望月

どんどんチャレンジしていくHondaの企業風土に共感して入社してくれるメンバーが多いです。最近では、ロボットに携わっていて、最先端の技術に挑戦できると期待して来てくれるエンジニアも増えました。ロボットは周囲の状況を理解し、判断して動く。これはクルマにも通じる技術です。

「フィジカルAI」への注目も高まる中、クルマに求められる知能のあり方も、大きく変わろうとしています。

望月

少し前なら、ロボット技術をクルマに応用すると言えば自動運転でした。それは今も変わりませんが、最近はAIエージェントへの関心が高まっています。走る・止まる・曲がるを自動化するだけでなく、クルマがあたかも人のように自分のことをわかってくれて、やりたいことを先読みして応えてくれる。こうした技術を開発してきたのは、従来の自動車メーカーではなくビッグテックと呼ばれるIT企業です。AIでも画像認識でも統計でも、専門性をお持ちの方なら、クルマづくりの経験がなくても来ていただきたいです。

「クルマを知らない人はいても、移動を知らない人はいない」。取材中、印象的だった言葉です。

安齊

Hondaが大事にしているのは、個人の移動を将来にわたって自由にすることです。それが守れるなら、極端に言えば動力はエンジンでも電気でも何でもいい。例えば電車を考えてみてください。車両も線路も昔からほとんど変わっていないのに、乗換案内アプリという『情報』が加わったことで、移動体験は劇的に便利になりました。同じことがクルマにも起こせるはず。情報を加えることで移動の仕方そのものが変わる。それがソフトウェアの力であり、SDVの本質だと思っています。

真っ白なエントランスに、赤いHondaのロゴ 「第二の創業」を空間で語る

エレベーターを上がって真っ先に目に飛び込んでくるのは、真っ白で統一されたエントランスと、赤いHondaのロゴ。

阿野

最も大切にしたのは、エレベーターを降りたときから、このオフィスの思想や魅力が伝わる景色をつくることです。

このスタジオのプロジェクトが始まったのは、ちょうどHondaが『第二の創業』を掲げた時期でした。エンジンに加え、SDVが新たな製品の魅力になる。まっさらな紙に最初の一文字を書くように緊張感をねらい、白基調のエントランスには象徴的に赤いHondaのロゴのみを置きました。多くを語らず、未来に向けての決意を示す空間になったと思います。

テーブルやライトの柔らかな曲線にも、意味があります。高速道路の設計に使われる「クロソイド曲線」です。

阿野

クロソイド曲線は、道路工学の計算式で描ける曲線です。アウトバーンのように、すっと気持ちよく流れに乗れるカーブが作れる。自動運転の要にもなると聞いて、じゃあこれを積極的に使っていこうと。ただ、ヒントはもっと前、創業者の本田宗一郎にあります。昔、施設の角を見て『歩行者・走行車の邪魔になる、丸めなさい』と言ったとのこと。モノづくりの企業として、お客さまを思うことの大切さを想起できるように、オフィスの各所に丸みを持たせ、ふとした時に思い出せるよう工夫しております。

オフィスのさまざまな場所に使われている書体は、ドイツの工業規格フォント「DIN」をベースにしたオリジナル。高速道路の標識にも使われる、一瞬で頭に入る視認性の高い書体です。

 

さらに、このテーブルの天板には、栃木の研究所で伐採された桜の木が使われています。

桜の木を通して栃木と虎ノ門をつなげたかったという

阿野

桜は、人間の都合で植えられて、危ないからと人間の都合で切られてしまう。伐採された後も、寄り添える形へ、広島の木工の匠に大テーブルを作ってもらいました。

でも、これが本当に大変で。木に穴が開いていたり、中がスカスカだったりして、4トンの原木から取れたのは、たった50キロほど。それを職人さんたちがなんとか形にしてくれました。

白い作業着のドレスが教えてくれる、HondaのDNA

「白」には、もう一つの意味があります。Hondaの象徴である、白い作業着です。東京地区のオフィスでは作業着を着用せず、私服で働きますが、「Honda Software Studio Tokyo」には、作業着をモチーフにしたアートが飾られています。

作業着を刻んでつくられたドレス。「なぜここにこんな物が?」と問いが生まれる仕掛け

阿野

作業着には、工場の人も購買の人もエンジニアも関係なく、みんな平等で同じ仲間だ、という思想が込められています。誰かが『なぜこんなところに作業服が?』と疑問を持つ。そこで、意味を知っている人が『それはね』と教えてくれる。あえて何気なく配置し、誰かが自ら伝承してくれたり会話のきっかけにしてくれたりするような空間を作っています。

白には、職種や役職を超えて同じ仲間であろうとするHondaのDNAが込められている

1,100人が集うオフィスに散りばめられた、アイデアが冷めない仕掛け

日々メンバーから寄せられる要望や改善のアイデアを束ね、より使いやすい場へと整えていく。それが拠点長・森田の役割です。

森田

各部門の代表が2週間に1回集まる大きな会議体があって、共用スペースの使い方やイベント利用の相談など、何でも持ち寄って決めています。若手メンバーも多く、自分たちで色々工夫しながらより使いやすくしてくれる。拠点長としては、そうした自発的な動きを尊重しながら、必要なところを支えていくことを心がけています。

散らばっていた拠点を一つに集約した狙いは、すでに形になり始めているといいます。

森田

自然と会話が生まれています。あそこでイベントをやってるなと立ち寄って、お互いの仕事を知ったり、『あの人とあの人が話してるな』という光景もよく見ます。物理的な距離が近くなったことで、何をするにも動き出しが早くなりました。

会話を誘発する仕掛けは、至るところに散りばめられています。執務エリアでは管理職の席を高めに設計し、身をかがめることなく気軽に声をかけられるようにしています。間仕切りはガラス張りで、誰がどこにいるかひと目でわかります。

阿野

ソフトウェア業界の大発明は会話から生まれた事実が多く、会話が起きる場所をどう作るかが要でした。いいアイデアはすぐに沸騰し、すぐ冷める傾向があります。冷めないうちに、どんどん色々な人にぶつけることが必要です。隠れて熱意から何か作ってきた先輩方の逸話は数多く聞いています。

和やかな雰囲気のなか活発な議論が交わされていた会議風景

 

会議室はガラス間仕切りになっている

 

もともとあったカフェスペースの天井を敢えて抜いてスケルトンにするなど、開放感へのこだわりも光ります。

阿野

革新的な発想は、ひとり自分と向き合う時間からしか生まれない。だから個室のように没頭できる場所も用意しています。役員にも個室はないのに、イノベーションを考える人は個室っぽい場所が使える。ちょっとおもしろいでしょう。

他にも、1人用ブース「SEED SOLO」・2人用ブース「SEED DUO」・3人用ブース「SEED TRIO」など、その日の仕事や気分に合わせた働き方を支えます。貫かれているのは、「リモートワークでは提供できない空間をつくる」という狙いです。

1人用ブース「SEED SOLO」

 

2人用ブース「SEED DUO」

 

3人用ブース「SEED TRIO」

 

座席はフリーアドレス制。約1,000の座席を1,200人で使う想定で設計されていますが、QRコードで予約もチェックインもできるようにし、「出社しても席がないのでは」という不安を解消しました。

階段でホッと一息。目線の先には大きな窓があり、階段を上り下りしながら外の景色も眺められる

 

「GARAGE」と名付けられたエリアもあります。といっても、ここに実車はありません。

阿野

Hondaには現場・現物・現実の三現主義という考え方があります。ここにはクルマがないから三現主義はどうするんだ、という話になったとき、いや、もうソフトウェアの中にクルマが存在できる時代だと。バーチャルのクルマも実際と同じ動きをするのだから、現物と言える。『デジタル三現主義』でいいんじゃないかと話したんです。

GARAGEにはこんな遊び心も

 

森田

この拠点が育っていく手応えを感じる一方で、次の課題は、物理的に離れた拠点とのコミュニケーションです。距離を超えて何ができるかを考えるのも、これから楽しみです。

拠点立ち上げ時に統括部長を務めた現取締役の四竈 真人(しかま・まひと)を囲んで

 

 

採用情報はこちら▶
https://www.honda-jobs.com/

 

取材・文:酒井 真弓 
※記載内容は2026年6月時点のものです

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